外国のプロリーグに参加していた女子選手が帰国し、待機期間を終えた後にラジオ番組へ生出演。朝ごはんをつくりながら聴いていた。
「日本食が恋しくありませんでしたか?」と問われて、
「食事はとても美味しかったです。でも『本だし』は持って行きました」
「本だし」と聞いた瞬間、僕は吹いてしまった。若いっていいなあ、ストレートで。この方、2000年生まれなんだそうだ。
この本だしにはある思い出がある。僕が中学生のころ、姉が病気で入院していて母が付き添いで長い間不在だった。朝食はいつも父がつくるんだけど、味噌汁がうまい。里芋の味噌汁なんかブチうまかった。
「味噌汁は父ちゃんの方がウマい」
ある日、父が台所で朝ごはんつくっているとき、味噌汁にある粉を入れていた。
「ナニそれ?」
「これか、魔法の粉よ。これを入れるほど旨くなるんじゃ」
それを観たとたん、僕はなにかガラガラと音を立てて崩れる気がした。
本だしが発売されたのは1970年。僕が14歳のときだった。