【口裂け女の話】
先日の大雨は夕方になると、いっそう激しさを増した。うす暗くなった六条のバス停に人が立っていた。ずぶ濡れの髪の長い女性が海をみつめていた。バスを待つ間に傘がなくて困っているのだろう。僕はそう思い、傘を貸してあげようと車を止めた。
「寒いでしょう。どうぞ傘をお使いくださーい」
その女性がふりむいて驚いた。真っ赤な口が耳まで裂けてケケケと笑った。うわ~、僕は怖くなってその場を急いで離れた。
そして獅子ヶ首のあたりに来たら、雨の中を傘もささずに人が歩いていた。こりゃたいへんだと思い車に載せてあげた。
「今しがた、怖い思いをしたんですよ。バス停で待っている人に声をかけたらその人の顔…」
すると載せた人がこちらを向いた
「こんな顔でしたか」
※「日本の幽霊」の著者 池田彌三郎氏によると、この手の怪談は夏の定番らしい。そのときに、誰かが他人のほっぺたを後ろからそっとナデると効果的だと。多いのはノッペラボウ。