
新連載「ゆうたの夏」
第2話:はじめての島
フェリーが港に着くと、船体がゴトンと音を立てて岸壁に寄り添った。ゆうたはリュックを背負い直し、足元を確かめながらタラップを降りた。
「よく来たな、ゆうた!」
そう言って出迎えてくれたのは、日焼けした肌に白い口ひげを蓄えた祖父だった。がっしりとした手で、ゆうたの頭をくしゃくしゃに撫でてくる。あ~~ちょっと乱暴だけど、アハハどこかあたたかい。
「おばあちゃんも家で待っとるけぇな。さあ、行こうや」
島の港は東京の駅とはまるで違って、どこまでも静かだった。車も人も少なくて、耳に届くのは蝉の鳴き声と、かすかな潮騒だけ。
道端には、色とりどりの花が咲いていて、アスファルトの割れ目からも草がのぞいている。
古びた軽トラに乗せられ、ゆうたは祖父とともに海沿いの道を走った。
「この島には信号はひとつしかないけぇの」
祖父が笑いながら言う。ゆうたも、思わず「ほんとに?」と笑ってしまった。東京では考えられない話だ。そういえばさっきからすれ違う車はない。
家に着くと、エプロン姿の祖母が台所から出てきて、ゆうたをやさしく抱きしめた。
「よう来てくれたねぇ。ゆうた、ちょっと背ぇ伸びたんじゃない?」
祖母の腕の中は、お風呂上がりのタオルみたいな匂いがした。
その夜、食卓には鯛のお刺身、タコの酢の物、トマトとキュウリの冷やし和え……すごいごちそうだった。美味しい。
「この鯛な、おじいちゃんが今朝釣ってきたやつじゃ」
「へえ……すごいなあ。釣るのはむつかしいの?」
「そうとも。餌をつつく感触が手に伝わって、そのタイミングがむつかしいんじゃ。どうだゆうた、明日、お前も一緒に行くか?」
祖父の目がきらりと光る。
ゆうたは少し考えて、うなずいた。
「うん、行ってみたい」
祖母がくすっと笑った。「朝は早いよ。日の出前には出るけぇね」
部屋には蚊帳を吊っていた。初めて見るものだった。これで蚊にさされることもない。網戸だけなのにとても涼しい。
布団に入ったゆうたは、海の音を聞きながら目を閉じた。東京では聞こえなかった、遠くから聞こえる波のリズムと、草の間で鳴く虫たちの声。まるで島の生きもの全部が、ひとつの音楽になっているようだった。
目を閉じると、昼間に見た潮風の景色がゆっくりと浮かび上がってくる。
はじめての島の夜。
なにかが、始まろうとしていた。
<第3話「朝焼けの海へ」>
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