鯛の里日記

周防大島町沖家室島の民泊体験施設・居酒屋の日常と、宮本民俗学の学びを書きます。

「竹林の守人(もりびと)テル」 第13話「海ノ神楽(うみのかぐら)」

 

潮風が香る夜だった

瀬戸内の海は月の光を映して銀色に染まり波は静かに砂浜を撫でていた

ゆうナミテルそしてアヤはかつて風と火水の記憶を繋いだすべての力が最後にひとつに還る場所――**海ノ神座かみのざ)**へとたどり着いた

そこは海に浮かぶ小さな島古より神楽の夜にだけ海神が姿を現すと伝えられていた島の中央に立つ神木の前にはすでに準備された白木の舞台があった

アヤ小声で)「ここで、“を捧げます海の神と失われた記憶のすべてに。」

ナミアヤさん……それって私たちも?」

アヤはゆっくりとうなずいた

アヤ神楽は神だけのためのものじゃない風を聞き水に触れ火とともに歩んだあなたたちのが必要なのです。」

テルは潮の匂いを深く吸い込んでから言った

テルわしもここで舞う者を見たことがある……月明かりの中で神と対話しとった。」

そのときゆうがそっと竹の笛を取り出した波の音とともにかすかな音色を紡ぎはじめる

──ヒュウ……ウウゥン……シュゥ……

不思議なことに笛の音に呼応するように波が静かに揺れた

月が舞台を照らし風が四人のまわりをやさしく包んでいく

アヤは白装束をまとうと舞台の中央に立ったナミもその横に立ちゆうと目を合わせるテルは舞台の隅で火の灯を見守っていた

アヤ始めましょう。“海ノ神楽。」

神楽が始まる

アヤはゆったりと腕を広げ風の流れを読むように舞いはじめたナミは貝殻の鈴を鳴らしながら潮の調べを奏でる

ゆうの笛がそれに重なり三人の音がひとつになると――

海がまるで呼吸をするように波打ち空に雲が渦を巻きはじめた

テル来るぞ……“海の記憶。」

すると海の中から無数の光が浮かびあがってきたそれはかつてこの島を守ってきたたち――忘れられた漁師子ども巫女そして神々。

光たちはゆっくりと舞台を囲み音に耳を澄ませていた

そして

月の中心からひとつの大きな光が降りてくるそれはかつて海ノ神と呼ばれた存在

アヤ静かに)「海神さま……」

神は人の形ではなかった魚の鱗のような身体潮風の羽のような尾目は深い海のように澄んでいた

「……音をありがとう風も火も水もすべての記憶が還ってきただがひとつまだ……」

神の声は海そのものの響きのようだった

ナミまだ何が足りないの?」

「“願い。――おまえたち自身の未来への願いが。」

ゆうはそっと笛を止め舞台に立った

ゆうぼくの願いは――この島がずっと守られることみんなの声が届くこと神さまたちが怒らなくてすむように……。」

ナミ涙ぐみながら)「私の願いは、……忘れないこと水も風もあたたかい記憶も全部。」

神は静かにうなずいたそしてその身体が無数の水の粒子にほどけ夜空へと舞い上がっていった

その光景は夜の海に咲く静かな花火のようだった

テルぽつりと)「……願いが届いたんじゃな。」

やがて波はふたたび静かになり空には朝の気配が訪れていた

風がやさしく吹きどこからか神の子守唄が聞こえてきた

次回第14風を継ぐ者たち」>

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