
ゆうたの夏
第4話「瀬戸内の鯛の食卓」
「ただいまー!」
港から戻ったゆうたの声に、祖母が笑顔で出迎えてくれた。台所のまな板の上には新鮮な野菜が並んでいる。
「まぁまぁ、ゆうた、立派な鯛じゃないの。すごいじゃない!」
「俺が釣ったんだよ。すごい引きだったよ。指に糸が食い込んで、まだ痛いよ。」
ゆうたは自慢げに、祖父が生け簀から取り出した鯛を見せた。銀と紅の光がまだピチピチと跳ねている。
「おばあちゃん、これどうやって食べるの?」
「そうじゃねえ……今日はゆうたが初めて釣り上げたお祝いだから、鯛のお刺身と、塩焼きと、あら汁も作ろうかねぇ」
祖父はさっそく魚をさばき始めた。まな板の上で包丁がリズムよく動く。うろこを落とし、内臓を抜き、骨に沿って身を切り分けていく。
「見て覚えとけ、魚はこうやって捌くんじゃ」
「うん……すごい……」
「ゆうた、今のうちに風呂へ入っておいで。」
祖母が、風呂場に案内してくれた。でも東京のおうちと違う形。バスタブは鉄の釜のようだった。
「これはねえゆうた、五右衛門風呂というの。風呂のふちが熱いから気を付けてね。そのうち慣れるから」
僕は服を脱いでかけ湯をして入ろうとしたら風呂に板が浮いていた。その板を踏むと板がひっくり返った。あれ、あれれ。どうやら真ん中を踏まないと沈まないのだ。ゆうたはバランスを取りながら両足で踏ん張って沈めた。
「ああ、気持ちいい。」
風呂釜の淵は熱かったけど、しばらくすると慣れたきた。窓の外はキレイな夕焼けが拡がっていた。初めての釣り。おもしろかったなあ。
夕方、風鈴がチリンと鳴る頃。縁側から海が金色に染まってゆく。夕食の準備が整った。
ちゃぶ台の上には、透き通った鯛の刺身、塩をふって焼かれた鯛の塩焼き、湯気の立つあら汁、そして祖母お手製の小鉢料理が並ぶ。
「さあさあ、ゆうたが釣った鯛じゃ。いただこう!」
三人は「いただきます」と手を合わせた。
「……うまい!」
刺身の歯ごたえはコリコリしていて、口の中で潮の香りが広がる。
「こんなにうまい魚、東京じゃ食べられないよ」
「ふふ、そりゃあそうじゃ。魚は新鮮なのが一番じゃ。これが一番の贅沢なんじゃよ」
祖母がにこにこしながら、おかわりのごはんをよそってくれる。
祖父は盃を手に「ゆうたに乾杯じゃ」と言って笑った。
アラ汁を食べながら祖父が、
「ゆうた、ここをみてみい。魚の骨にコブがあるじゃろう。」
「ああ、ほんとだ。尻尾の近くの骨に丸くなったコブがある。おじいちゃんなにこれ?」
「これはのうゆうた。力こぶというて、瀬戸内の速い潮に鍛えられてできたコブじゃ。人間も鍛えたら腕に力こぶができるじゃ。それと同じだ」
夕暮れの島。窓の外には、オレンジ色に染まった雲がゆっくりと流れていく。
ゆうたの心は、じんわりとあたたかかった。今日一日、船の上で感じた潮風や、指に食い込んだ糸の痛み、鯛が跳ねる水音。そして
「おじいちゃん、おばあちゃん。ありがとう。ほんとに、最高の夏休みになりそう」
そう言って、ゆうたはごはんをもう一杯、おかわりした。
<5話「冒険のはじまり」>
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