
連載「ゆうたの夏」
第5話「島っ子と冒険のはじまり」
ゆうたが島に来て数日が過ぎた。
祖父との漁、祖母との夕食、海と風の匂いに包まれた日々。けれど、まだどこかよそ者のような気がしていた。
そんなある日の午後、祖母に言われて近くの雑貨屋へ醤油を買いに出かけた帰り道。
「おい、見ねぇ顔だな」
急に横道から声がした。振り向くと、麦わら帽子をかぶった日焼けした少年が、手を腰に当てて立っていた。
「東京から来たんだろ? オレは航太(こうた)。ショウジ爺さんの孫なんだってな」
ゆうたは戸惑いながら「僕…ゆうた」と名乗った。
航太はズケズケと距離を詰めてきたかと思うと、急に笑った。
「都会っ子か。お前、釣りはできんのか? 泳げるか? 木に登れるか?」
質問攻めにされたゆうたは、たじたじになりながら「釣りはちょっとだけ……」と答えた。
「ふーん、じゃあ試してみるか? 今日、探検隊出発するからさ。お前も来いよ」
「探検隊……?」
すると、草むらの向こうから明るい声がした。
「こうちゃん、また新入りをイジってんの?」
笑いながら走ってきたのは、一つ結びにした髪が風に揺れる女の子だった。透き通るような瞳と、日に焼けた元気な笑顔。
「私さくら。こうちゃんとは幼なじみなの。私はイジったりしないから安心してね」
ゆうたは自然と顔がほころんだ。
「今日は島の“秘密の入り江”まで冒険に行くんだ。魚がいっぱいいる、浅瀬の洞窟があるんだ」
航太は得意げに地図のような紙を取り出し、「ここから山道を抜けて、この崖の上から降りると……誰も知らん秘密の場所があるんだ」と声を低くした。
さくらが笑いながら「航太の“誰も知らない”って、だいたいみんな知ってるんだけどね」とつぶやいた。
ゆうたは笑った。自然に、心の中の警戒心がとけていくのを感じた。
「……行ってみたい!」
気がつけばそう口にしていた。
ゆうたは帰宅して醤油をおばあちゃんに渡し、そして3人は走り出した。麦の穂をかき分け、小さな丘を越えて、島の奥へ。
青い空の下、蝉が鳴いていた。
――冒険のはじまりだった。
<次回「洞窟の秘密基地と海風」>
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