鯛の里日記

周防大島町沖家室島の民泊体験施設・居酒屋の日常と、宮本民俗学の学びを書きます。

連載「ゆうたの夏」第7話「海に消えた出口」

第7話 「海に消えた出口」
「もうこんな時間か。潮が満ちてきとるな。帰るぞ」

航太の言葉に、ゆうたは洞窟の外へ向かって足を進めた。だが、さくらが立ち止まり、洞窟の入口を見つめて小さく声を漏らした。

「……え?」

ゆうたも顔を上げた。入口の岩の間から、海水がすでに満ち始めていた。

「やばい!潮が入り込んでる!」

洞窟の出入り口は、干潮のときにだけ現れる狭い岩の通路。そこは今、胸のあたりまで海に浸かっていた。しかも入り口付近は深くなっている。みるみるうちに水かさが増していく。

「もう歩いては出られん。潜るしかねぇ」

航太の声が少しだけ強ばっていた。

「だ、大丈夫かな……」

「平気だよ、ゆうた。わたしが後ろからちゃんとついていくから」

さくらがそっと手を握ってくれた。そのぬくもりが、ゆうたの胸に灯をともす。

「さくらもゆうたも水中眼鏡をつけるんだ。泳ぐ距離は短い。出口の向こうまで一気に潜ればいい。息をしっかり吸って、焦らずゆっくり進め」

航太の声にうなずき、ゆうたは深呼吸をした。心臓の音が耳に響く。

そして──

「行くぞっ!せーの」

3人は順に水中へ潜った。冷たい海水が体を包む。岩と岩の狭い間を、光の差す方へと進んでいく。

だがそのとき、ゆうたの足に何かが絡んだ。

「ッ……!」

藻だった。ねじれるように足首を巻き、身動きが取れなくなる。息が続かない「うう…」──焦りが喉元を突き上げてきた。

その瞬間、力強い手が、ゆうたの腕をぐっとつかんだ。

航太だった。

彼は貝を剥がすヘラをナイフ代わりに、迷わずわず藻を切った。

「ゆうた、こっちだ!」

視界が揺れる。もう何がなんだかわからなかったが、航太の手のぬくもりだけが、ゆうたを導いてくれた。

次の瞬間──

ざぶん、と顔を上げると、空が広がっていた。潮の匂いと夕日がゆうたを包んだ。

「ぷはっ……!」

「大丈夫か!?」

「う、うん……ありがとう……」

しばらく息を整えて、3人は波打ち際に腰を下ろした。

「まったくどうなるかと思ったよ。助かったなゆうた」

「僕…怖かったけど、二人がいてくれたから……」

海の向こうはキレイな夕焼けが輝いていた。

「なあ、明日もまた来ようぜ。釣りをしようか」「うん、釣り賛成」

さくらも笑った。

「でも今度はちゃんと潮の時間、調べてからね!」

「あははは」

3人は笑い合った。
<次回第8話「ゆうた初めての磯釣り」>

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