

連載「ゆうたの夏」
第8話「ゆうた磯釣りに初挑戦」
(潮が満ちてきて洞窟に閉じ込められそうになった)
「昨日はほんと、焦ったよな」
航太が釣竿を肩にかけて岩場を歩きながら言った。潮の時間をしっかり調べた今日は晴天。波も穏やかで、海はまるで何事もなかったかのように澄んでいる。
「うん。でも……助けてくれてありがとう」
ゆうたは昨日の出来事を思い出すたび、胸が少しざわついた。でも、それ以上に感じていたのは──仲間との絆だった。
「ここが釣り場。よく釣れるんだぜ。型は小さいけど、メバルやギザミ、ヤハンとかがたくさん釣れる」
さくらが指さしたのは、入り組んだ入り江。岩場の先に、ぽっかりとした潮だまりが広がっていた。
「今日はゆうたに釣らせてやろう。な、さくら」
「うん。私もサポートするよ」
航太の言葉に、ゆうたは思わず顔を赤らめてうなずいた。
「いいかゆうた。餌は岩にへばりついてる牡蠣を石で叩いて、中の身を針につけるんだ。やってみな」
ゆうたは石でコンコンと牡蠣を叩く。中から白い身が現れた。それを針に慎重につけると、さくらが言った。
「じゃあ、私が餌をとる係ね。ゆうたと航太は釣ってて」
「うん、わかった。ありがとう」
餌のつけ方から投げ方まで、二人が丁寧に教えてくれる。竿を握る手が、ほんの少しだけ震える。
「よし、行け!」
スッと竿を振ると、針が美しい弧を描いて海へ飛んだ。
波の音、カモメの声。陽射しの中で、時間がゆっくりと流れていく。
「……お、なんか来てるかも!」
「ほんと! 竿がしなってる!」
「ゆっくり、焦らず上げて!」
三人が身を乗り出した瞬間、ピチピチと跳ねる魚の影が海面に浮かび上がった。
「やった、メバルだ!」
小ぶりだけど、魚体が陽に照らされてきらりと光る。
「すごい、ゆうた!」
「初釣果だな。自分で釣った魚は、うまいぞ~」
釣れたメバルをバケツに入れると、さくらが提案した。
「じゃあ、三人で釣り競争しようよ」
そのあと三人は、メバルやギザミ、ヤハンなどを次々と釣り上げ、バケツは半分ほど埋まった。
「そろそろこれでいいか。浜で焼いて食べよう」
航太が言うと、ゆうたが目を丸くした。
「え、ここで?」
「ああ、流木がいっぱいあるだろ? 乾いたやつはよく燃えるんだ。魚は俺が捌くよ」
するとさくらが、
「じゃあ私は竹串を作る。砂浜の上の竹、ちょっと切ってくるね」
「ゆうたは、俺が捌いた魚を串に刺してくれる?」
「うん、わかった」
さくらが竹串を切り出しているあいだ、航太は小型ナイフで魚の鱗をささっと落とし、はらわたを取り出して海水で洗った。
「じゃあ、火を起こすぞ」
航太はマッチを取り出し、乾いた松の葉を集めて火を点けた。フーフーと息を吹きかけると、もくもくと煙が上がり、小さな火が灯る。やがて火は流木へと移り、パチパチと音を立てて燃えはじめた。
「ゆうた、火のまわりに竹串を斜めに立ててみて」
やがて魚に火が通り、だんだんと焦げ目がついて、香ばしい香りが漂いはじめた。
「もうそろそろいいだろう」
航太が砂から串を引き抜いて、ゆうたに渡した。
「ゆうた、こうやって横から骨をよけて、かぶりつくんだ。熱いぞ」
航太から手渡されたメバルは、ゆうたが自分で釣った初めての獲物だった。彼は言われた通りに魚の横からかぶりつく。
「うまーい!こんなの、東京じゃ絶対食べられないよ」
さくらが笑って、
「じゃあ私は、釣ったギザミね」
航太も笑いながら、
「俺はアジだ」
三人の至福の時間は、穏やかに過ぎていった。ゆうたは心から思った。──田舎って、こんなに面白いんだ。
そのとき、さくらが言った。
「そうだ。お父さんとお母さんがね、庭でバーベキューしようって。ゆうたの歓迎会。航太も来ない?」
「えっ、本当?ありがとう!帰ったら、おじいちゃんとおばあちゃんに伝える!」
航太も
「うん、わかった。父ちゃんと母ちゃんにも言ってみる。じゃあ火を消そう。穴を掘って水をかけて砂を上からかけるんだ。こうしたら風が吹いても火が飛ばないからな」
「さすが航太ね。了解」
三人は火の始末をして、帰路についた。
陽はすっかり傾き、瀬戸の海へ一筋の光がまっすぐに差し込んでいた。
<次回第9話「「星空の下のバーベキューと庭の蚊帳体験」