鯛の里日記

周防大島町沖家室島の民泊体験施設・居酒屋の日常と、宮本民俗学の学びを書きます。

連載「ゆうたの夏」 第9話「星空の下のバーベキュー」

連載「ゆうたの夏」
第9話「星空の下のバーベキュー」

さくらの家の庭には、大きな木が一本立っていて、その下にテーブルと椅子が並べられていた。夕暮れの空にツバメが低く飛び交い、瀬戸内の夏の夕べが始まろうとしている。

「わぁ、いい匂い……!」

ゆうたはテーブルの上に並べられた串焼きの魚や野菜を見て、思わず声を上げた。航太が網の上でサザエを焼いている。コトコトと音を立てて、殻の中から芳ばしい香りが立ちのぼった。

「これ、うちの父ちゃんが今朝とってきたサザエとアワビ。漁師なんだ」

「え、すごい!」

「きみがゆうたくんか。航太が遊んでもらって、ありがとう。少しやんちゃなとこがあるけど、よろしくな」

「いえ、ぼくこそ仲間に入れてもらってうれしいです」

そばにいたさくらが、腹を抱えて笑いだした。

「もう父ちゃんたら。さくらもそんなに笑わなくてもいいじゃん」

航太の父親はごつごつとした手をしていたが、目元は優しく笑っていた。母親も大きなタッパーに入った海の幸を持ってきて、慣れた手つきでさばいていく。

そこへ、ゆうたの祖父母がやってきた。おじいちゃんはクーラーボックスを肩に提げ、おばあちゃんは手ぬぐいを首に巻いてにこにこと笑っている。

「ワタシらもお招きにあずかり、ありがとうございます。これは今朝釣った鯛じゃ。刺身にしたんで持ってきた」

みんながオーっと声を挙げた。

テーブルが一層にぎやかになった。新鮮な刺身、貝の焼き物、野菜の串、スイカまである。子どもたちの笑い声が庭に響く。

「おいしい……!」

「これ、ほんと絶品だな」

みんなが箸を動かし、笑いながら食べた。ゆうたは心の底から嬉しかった。都会では味わえない、家族と仲間が囲むあたたかな食卓──その幸せに胸がふくらむ。

大人たちは木の下でお酒を呑みながら談笑していた。

「ゆうたくんは一人で東京から?」とさくらの母親が、

「そうなんじゃ。ゆうたの両親が共働きで、昼間にゆうたの面倒がみれないからというのでワシらがあずかることにしたんじゃ。」

祖父がそういうと祖母が、

「東京の子どもが、こんな田舎で大丈夫じゃろうかと思ってたけど航ちゃんとさくらちゃんが仲良くしてくれて、ほんとに助かりました」

航太の父親が、

「ゆうたくんとさくらちゃんを、ウチの船に乗せてもよかろうか」

そういうと祖父が、

「そりゃよろしくお願いします。先日ゆうたを船に乗せたら、ゲーゲー吐きましての。呑み込め―といったらほんとに呑み込んで、それから酔わんようになりましたから大丈夫です」

「おー、そりゃたくましい。さっそく洗礼をうけましたか。ハッハッハ」

話は盛り上がっていた。

ゆうたたち三人は、次はどこへ行こうかと話し合っていた。

さくらの父親が

「そろそろお開きにしましょうか」

航太の両親も、ゆうたの祖父母も深々と頭を下げ

「今夜は引き続き、子どもたちがお世話になります」

と引き上げていった。

さくらの父が庭の木に大きな蚊帳を吊った。

「昔はこうして、庭で寝たもんだ。風が気持ちいいぞ」

三人は中にマットを敷き、寝袋を持ち込んで並んで寝ることにした。見上げると、蚊帳越しの夜空に星が無数にまたたいていた。

「……きれい……」

ゆうたは息をのんだ。東京では見たことのない、こんなにも澄んだ星空。流れ星がすっとひとつ、夜空を横切った。

「な、田舎も悪くねぇだろ」

「うん。すごくいい……」

そう言って目を閉じたが、夜中──ふと気配を感じて目を覚ました。

「……え……?」

蚊帳の上に、何かがいる。細長く、うねる影。目をこらすと、1メートルほどのヘビが、蚊帳の上からゆうたを見下ろしていた。

「……へ、へび……」

口元からベロをチロチロと出し、まるで笑っているような顔。声も出ないほど固まっていたゆうたを見て、隣の航太が目を開けた。

「……なんだ、アオダイショウか。いつものやつだ」

さくらも目を開け、声をあげて笑った。

「そう、いつものこと。木にすんでるの。人間には何もしないから大丈夫!」

二人はまったく動じていない。へびはやがて、にゅるりと木のほうへと戻っていった。ゆうたはどっと力が抜けた。

「……すごいとこに来ちゃったな……」

でもその後は、不思議と眠りにつくことができた。
そして──
朝。

「ミィィィィィィィ~~ン ミイ~~ン!!」

耳をつんざくような蝉の声で目が覚めた。

「うわっ、すごい音!」

「ははっ、これが夏だよ」

木の葉の奥で、何匹もの蝉がけたたましく鳴いていた。ゆうたは、腕の中に自然の空気を感じながら、思わず笑った。
<次回第10話「島の海水浴」>

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