鯛の里日記

周防大島町沖家室島の民泊体験施設・居酒屋の日常と、宮本民俗学の学びを書きます。

連載「ゆうたの夏」 第10話「島の海水浴」

連載「ゆうたの夏」

第10話「島の海水浴」

「おッはよう、ゆうたー、航太ー。朝ごはんできたよー」

さくらの声が、蚊帳越しに響いた。島の朝は、セミのけたたましい鳴き声から始まる。

「うわっ、すごい音……」

「これが島の朝よ。夏の風物詩!」

さくらが笑いながら蚊帳を開ける。まぶしい日差しが差し込み、庭にはさくらのお母さんが用意してくれた朝食が並んでいた。

クロワッサンにスープ、ベーコンエッグ、冷たいフルーツ――洋風だけど、不思議とこの島の朝にぴったりだった。

「いただきまーす!」

三人で囲む朝食。青空とセミの声、庭に吹く潮風が、島の夏をまるごと包み込んでいる。

「ラジオ体操、始まるよー!」

食後、公園に向かうと島の子どもたちが集まっていた。ラジオ体操カードを手に、さくらが駆け寄る。

「今日は航太がハンコ係だよ!」

「よっしゃ!」

航太がドヤ顔でスタンプを構える。

「僕、カードない……」

「じゃーん! 作っといたぞ。昨日のぶんも押しといた」

「ありがとう、航太!」

体操を終えると、さくらが言った。

「今日は海水浴に行こうよ。いつもの浜、潮もちょうどいいし」

「うん、昼ごはん食べたら、僕んちに集合ね」

島では10時までは宿題の時間。ゆうたは自習の間、縁側でのんびりしていた。猫の頭を撫でながら、風鈴の音がチリ~んと涼しい。クーラーなんかいらない。

「ゆうた、お昼よ。ソーメンをつくったから食べよう」

涼しい風の通る縁側で、キンキンに冷えたソーメンをすするのは格別だった。

昼すぎ、さくらと航太がやってきた。

「おばちゃん、ちょっと着替えさせてねー!」

ゆうたも水着に着替え、家のすぐ裏の浜へ向かう。

白い砂浜、透明な海。まるで絵本の世界だった。

三人は思いきり泳ぎ、魚を追いかけ、貝殻を拾って笑いあった。

「見て、魚がいる!」

「こっちにもイソギンチャク!」

波の中で過ごす時間はあっという間だった。

夕方、ずぶ濡れのまま帰ってきた三人に、祖母が笑いながら言った。

「あらあら、びしょぬれ。足を洗って、銭湯に行っといで」

さくらと航太は一度家に戻り、ゆうたは祖母に教わった道をたどって銭湯へ。島にひとつしかない小さなお風呂屋さんだ。

入り口を開けると、番台にいたのは──

「いらっしゃい。ゆうべは楽しかったねえ」

なんと、さくらのお父さんだった。

(えっ、さくらんちって銭湯だったんだ…!?)

「さあ、あがってあがって」

脱衣場に入ると、航太がすでに来ていた。

「おー、ゆうた! 早く脱げよー」

戸惑いながら服を脱いでいると、ふいに通路から人が現れた。

「お父さん、お母さんが呼んでるってー」

――さくらだった。

「さくらちゃん!? ここ、男湯の脱衣場……!」

ゆうたは思わず前を手で隠したが、航太はスッポンポンのまま突っ立っていた。さくらも航太も涼しい顔。

「だいじょうぶ。私、慣れてるから」

鼻歌まじりに帰っていくさくらを見送りながら、ゆうたは真っ赤な顔でつぶやいた。

「心臓が口から飛び出るかと思った……」

湯気立ちこめる風呂場で、ゆうたと航太は背中を流しあっていた。

「なあ、次は何して遊ぶ?」

「うーん……」

ゆうたが考えていると、航太がニヤッと笑った。

「うちの父ちゃんが、ハマチ釣りに連れて行ってくれるって」

「ほんとに!? 船で?」

「本当本当。明日、朝早くだって」

すると隣の女湯から、さくらの声が聞こえた。

「ねえ、聞こえてるよー! 私も行くからねー!」

「わかってるよー、明日なー!」

「わかったー。私、もう出るねー」」

「さくらって、オレが風呂に入ってるといつも入ってくるんだ」

なんだかさくらと航太は兄妹みたい。ゆうたはうらやましくなった。

風呂上がり、さくらのお父さんが牛乳を差し出してくれた。

「これ、冷えてるぞ。飲んでいきな」

牛乳瓶のフタに針を刺し、ポンと紙のフタをあけてくれた。パンツ一丁のゆうたと航太は腰に手を当てて飲もうとした。

そのとき、番台の前の女湯の脱衣場との間のドアが開いて、さくらがひょっこり現れた。

ゆうたは吹き出した。ブッ!!

「えっ……なんで!?」

「だってここ、私んちの通路だもん。お父さん、私も牛乳」

三人が並んで腰に手をあてて飲み干した。番台のさくらのお父さんがケラケラ笑っていた。

そしてさくらは「また明日ねー」と言って鼻歌まじりで帰っていった。

ゆうたは、キョトンとしながら見送った。

(なんて不思議な島なんだろう――)

<次回第11話「ハマチ大作戦」>

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