鯛の里日記

周防大島町沖家室島の民泊体験施設・居酒屋の日常と、宮本民俗学の学びを書きます。

連載「ゆうたの夏」 第14話「航太とさくらの大げんか勃発」

 

連載「ゆうたの夏」
第14話「航太とさくらの大げんか勃発」

さくらの家に向かったゆうたは、玄関の前でなにやら怒鳴り声を耳にした。

「なんでやってないのよ!宿題、昨日までにここまでって決めたじゃん!」

「うっせーな、知らねーよ!」

がらりと玄関を開けると、さくらと航太が畳の上で取っ組み合いをしていた。航太がさくらの足を蹴り、さくらは「やったなー!」と突進していく。

「やめて、やめてよ!」

あわててゆうたが間に入った。だけど、勢いそのままに航太が腕を突っぱねたその先にいたのは——ゆうただった。

「うわっ!」

ごろん、と転がるゆうた。畳の端に頭をぶつけてしまった。

「いててー」

「ゆうた!」

「だいじょうぶ!?ごめん!」

慌てて駆け寄る航太とさくら。

「う、うん……だいじょうぶ……」

そこへ、さくらの母がなにごとかと部屋に入ってきた。

「ゆうたくん、ごめんね。ほんと、いつものことなの。放っておけばそのうち仲直りするから」

母はなにごともなげに言って、台所からおやつを運んできた。

「はい、おやつよー。今日はメロンがあるわよ」

「わー、さくらの好きなメロンだー!」と航太。

「ほんとだ!やったー」とさくら。

さっきまであんなにケンカしてたのに……。ゆうたはぽかんとした。

しばらくして三人で宿題タイム。

「ねえ航太、この引き算、ここ間違ってるよ」

「あー、そうか、ここ引くんだっけ」

もうさっきのケンカはどこへやら、ふたりはすっかりいつもの調子だ。

そのとき、さくらの父が帰ってきた。

「またケンカしてたんだって?お前らほんと、小さいころからケンカばっかりだなあ」

母が笑いながら言った。

「でもね、この子たち一人っ子同士だから、なんだかんだ言って兄妹みたいなのよね」

すると航太が胸を張って、

「じゃあ、オレは兄ちゃんだな」

「なに言ってんの、ケンカだって私の方が強いし、成績だっていいし、お姉ちゃんに決まってんでしょ。べー!」

「うわ、また始まったよ……」

ゆうたは思わず苦笑い。

すると、さくらの父がゆうたの顔をのぞきながら言った。

「でも、ゆうたくんも一人っ子だよな。どうりで三人が違和感ないはずだ。ということは、三人でいると兄妹みたいなもんだな」

「じゃあ……僕は弟?」

「そうそう、新入りだから弟ね」と航太。

「わたし、弟ほしかったんだ~」とさくらが笑った。

「え~、なにそれ~」

(いつかケンカもできる兄妹みたいになれたらいいな)と、ゆうたは思った。

そのとき、さくらの父がぽんと手を打った。

「そうだ、お風呂沸いてるから、入ってから帰りなさい。銭湯、今から開けるからね」

「わー、ありがとうございます!」

さくらの母が、

「こんなこともあるだろうと思ったから、二人の着替えも用意しといた。着替えた服は置いときなさいね。洗濯しとくから。着て帰った服は次の時に持ってきたらいいからね」

ゆうたは(本当に家族になったんだな)と、嬉しかった。

さくらの家は、島の小さな銭湯を兼ねている。家の奥の通路を抜けると脱衣場につながっていた。

ゆうたと航太が服を脱いで風呂場に入ろうとしたら、鼻歌まじりにさくらがやってきた。

「私も入ってるからね~」

そう言って、女湯へすたすたと入っていく。

「わ、わわわ……!」

ゆうたはとっさに両手で顔を隠したが、航太もさくらもまるで気にする様子がない。

(……これが、兄妹になるってこと?)

ゆうたは胸の中が、ちょっとだけきゅっとした。
<次回第15話「再び秘密基地の洞窟へ」>
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