
連載「ゆうたの夏」
第19話「お盆も近い干物づくりのある日」
朝のラジオ体操が終わると、ゆうた、航太、さくらは港へと足を急がせた。
目的は、航太の父が網でとってきた魚をもって干物づくりのために航太の家に運ぶこと。
「よう来たねー」と、日焼けした顔で航太の父が笑う。
船には大きな生け簀があり、中を覗くと小さな魚がうようよと泳いでいる。
「これはレンチョウ。こっちはカレイ。タコもいる」と、航太が得意げに説明する。
そのとき、ゆうたが水面を指さして驚いた。「うわっ! バルタン星人!?」
そこにいたのは、平たい奇妙な形をしたウチワエビだった。
「これ旨いんだぜー、エビのなかでは一番好き。とうちゃん、これ持って帰っていい?」
「三人分、三匹もって帰って食べなさい」
「やったーっ!」
三人は嬉しそうにウチワエビや小魚ををバケツに入れ、港からの帰り道を歩いた。
その後ろを、いつの間にか猫がついてきていた。

「気ぃつけろよ、猫が狙ってるぞ」と航太。
その矢先、ゆうたのサンダルに石ころが入り「いててっ」としゃがみ込んだ。
その隙に、バケツのフチから魚をくわえて逃げる猫。
「だから言っただろう!」と航太。さくらはお腹を抱えて笑った。

航太の家に着くと、近所の人たちが干物づくりの準備をしていた。
魚の鱗を手際よくこさげ、腹を割いて内臓を取り出し、塩をふっていく。
「すごいなぁ」とゆうたが感心していると、「軽く朝ごはん食べたら、あんたたちも手伝って」と航太の母。
子どもたちの仕事は、干物を干しカゴに並べること。
魚を一匹ずつ丁寧に並べて、庭に干す。

空からはカラス、足元からはさっきの猫がうろうろ。「しっしっ!」と追い払いながら、仕事をこなしていく。
全部干し終わるまでネットを掛けられないため、見張りが大事。
猫がすきを見てネコババしようとした。「コラ―っ」と追い払う航太。「油断も隙もねえ」。これも子どもたちの大事な役目。さくらもゆうたも見張っていた。
干し終わった網には、最後にカバーのネットをかけて完了。
「できたー!」と三人が声をあげた。

しばらくすると、航太の母が炭火のコンロに火を入れ、焼き干物を並べた。
ジュウウ……と音を立てて、香ばしい匂いがあたりに立ちこめる。
「うまっ!」「私、これ大好物なんだよね」とさくらが満面の笑み。
子どもたちはぺろりと平らげ、お礼を言って外に出た。
昼下がり、三人は目の前の海へ。
さざ波のなか、笑いながら泳ぎ、海水をかけ合ってはしゃいだ。

濡れた体のまま、さくらの家の銭湯へ直行。
航太が母からことづかった干物を番台のさくらの父へ。
「これはまた立派なのを。ありがとな、航太! お父さんとお母さんによろしくな」
風呂場に入ろうとしたとき、さくらが「私も入るからね~♪」と鼻歌まじりで登場。
「わ、わわっ!」とゆうたがあたふたすると、またさくらが笑う。

湯舟に浸かるゆうたと航太。隣の女湯からさくらの声が聞こえる。
「ねーねー、お盆が近いねー。ゆうたくんのお父さんとお母さん、帰ってくるの?」
「うん、十三日に帰るって」
「楽しみだねー。会ってみたいなー」とさくら。
「うん!」と、ゆうたの顔がほころぶ。
風呂から上がると、さくらが扉を開けて入ってきた。あわててパンツを履くゆうた。「もう気にしなくていいから」と笑うさくらと航太。
牛乳を一気に飲み干す三人。
腰に手を当てて「ぷはーっ」。
それを見ていたさくらの父が笑った。
「ほんとに三人兄弟みたいじゃのう」
「だから俺が長男!」
「違う、私が長女!」
「そんなわけないでしょ、長女と長男が二人もいたらおかしいって!」とゆうた。

夕暮れ、縁側で涼む三人。潮風が気持ちいい。
空はほんのり茜色。お盆が近い。
「もうすぐ、お父さんとお母さんに会えるんだ」と、ゆうたがぽつりと言った。
その目は、少しうるんでいて、でもとても嬉しそうだった。

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