
「ゆうたの夏」第22話(最終回)
「島と友人との別れ」
盆踊りの櫓から、太鼓の音が夜空へ響く。提灯に照らされた広場には、島じゅうの人々が集まっていた。
「ゆうたくん!」
さくらの家族が声をかけてくる。
ゆうたと両親が「こんばんわ」とあいさつ。ゆうたはさくらをみてハッとした。髪を結いあげ、淡い色合いの浴衣姿。
(か…かわいい)
「航太は?」と尋ねると、さくらは笑って指をさした。
櫓の上で一心に太鼓を叩く航太の姿。
「日ごろはオッチョコチョイだけど、ああいうときはカッコいいのよね」
その言葉に、ゆうたも思わず笑った。

やがて仮装大会が始まった。
大きなお腹に「へのへのもへじ」と描いた奇妙な踊り手が現れ、ゆうたとさくらの前で踊り出す。
「お、お父さんじゃないですか!」ゆうたの父が声を上げる。
よく見ると、それは祖父だった。
一同は大笑い。祖父は手を振りながら輪の中へと戻っていった。祖父は内緒にしてたのだった。
その後、母が「二人でかき氷でも食べておいで」と、お小遣いを渡してくれた。
ゆうたとさくらは浜辺へ行き、波の音を聞きながら並んで腰を下ろした。
「明日、帰っちゃうんだね」
「うん。でも、さくらちゃんと航太のこと、絶対に忘れないから」
さくらは泣き出しそうな顔を隠すように、スプーンでかき氷をかき混ぜた。
そこへ航太が駆けてきた。

「いたいた。ゆうたのお母さんが、お小遣いくれてさ!」
三人で笑い合いながら、最後の夜を過ごした。
「さくらちゃんが、崖から滑り落ちた時、死んじゃったらどうしようと本当に思った」
「あのときは私も驚いた。でもゆうたくんがおんぶしてくれて、航太が町の人を呼びに行ってくれて。助かったー」
「そうそう、航太が肝試しで腰を抜かしたこと、あれ笑ったなー」とさくら。
「言ったなー、言うなっていっただろ。フンッ」
「僕は、さくらちゃんと航太が大喧嘩して僕が止めに入ったら突き飛ばされてアタマ打ったこと。でも、おやつが出たらケロッとしてた。あれが一番の思い出だよ」
たくさんの思い出が次々と語られ、笑いと涙が交じった。
「明日、ウチのお父さんがお風呂わかすから入りに来なよって」
さくらの言葉に、ゆうたと航太は「やったー!」と声を揃えた。
――翌朝。
島を出る船は午後だった。
ゆうたは約束の10時に銭湯に着くと、もう航太は来ていた。ふたりが風呂場に入ろうとしたら、さくらが「私もはいるからね」と横を通り過ぎた。
「うん、わかった」とゆうた。
「ん?」
「あれ?」
「あッはッは」
湯船に浸かっていると、さくらが「私もそっちに入りたいなー」。
それを聞いたゆうたは、ズルっと湯の中で滑った。
「そういえば、しばらく一緒に入ってないなー」と航太。
それを聞いたゆうたはズボっと湯に入り込んだ。
「あ、ゆうたがいない。溺れてる」
顔をあげたゆうたが、「ふたりがあんなこと言うから溺れちゃうとこだったよ」
「やあねー航太ったら。保育園のころの話だよー」
「なんだ、そうだったのかー」
三人で笑いながら湯気に包まれた時間は、短いけれど温かかった。
やがて港。

さくらや航太の家族、そして一緒にラジオ体操をした子どもたちが揃って見送りに来ていた。
「ゆうたがお世話になりました」
ゆうたの両親は祖父母に深々と頭を下げ、祖父も航太とさくらを見て「ふたりが友達になってくれて助かった」と礼を言った。
「ゆうたくん、また島に帰っておいでよ。お風呂沸かして待ってるから」
さくらの父の言葉に、港じゅうが笑い声に包まれた。
フェリーのデッキに立ち、ゆうたは叫ぶ。
「みんな、ありがとう!また来るからねー!」
船が動き出すと、子どもたちは港の端まで走り、必死に手を振った。
「またねー、元気でねー」
――あれ? さくらと航太の姿がない。
そう思ったとき、一艘の船が追いかけてきた。
舵を握るのは航太の父。その船上で、さくらと航太が大きく手を振っていた。
「ゆうたー!また来いよー!俺たち兄弟だからなー」
「ゆうたくん、元気でねー!」

フェリーの汽笛が鳴る。港が遠ざかる。もう声は届かないのに、ゆうたは必死に叫び続け、腕が痛くなるほど手を振り続けた。
両親がそっと肩を抱き、「また帰ってこような」と囁く。
ゆうたは涙でかすむ視界の向こうに、笑う航太とさくらの顔を焼きつけた。
東京の自宅に帰った夜、布団に入ったとき、ゆうたは耳を澄ませた。
波の音と、盆踊りの太鼓が、まだ胸の奥で鳴り続けていた。
――こうして、ゆうたのひと夏の旅は幕を閉じた。
おしまい
「ゆうたの夏」を読んでくださった皆様、ありがとうございました。次に会いできるときは、三人が中学生のころかなと思っております。その時は、ちょっと甘酸っぱいストーリーになるかな。またお会いしましょう。ありがとうございました。
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