鯛の里日記

周防大島町沖家室島の民泊体験施設・居酒屋の日常と、宮本民俗学の学びを書きます。

「男はつらいよ お帰り 寅さん」MOVIX周南

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男はつらいよ お帰り 寅さん」を観た。MOVIX周南のロビーは月曜日ともあってか、いつも以上にガラガラだった。ロビー窓際の僕の座って待つテーブルの横は、年はすでに70歳を超えていそうな夫婦。夫は杖を持っていた。すると、同世代の女性グループが近寄ってきた。「まあ、久しいじゃないで」。「ほうよ、寅さんを観にきたんよね」と、まるで井戸端会議のような賑やかさ。

男はつらいよ」が最初に放送されたのは、1968年10月3日フジテレビが制作・放送したテレビドラマが最初で、葛飾柴又の帝釈天が舞台ではなかった。このテレビ版はヒットしたが、最終話でハブ酒を作ってひと儲けしようとした寅次郎が、奄美大島にハブを取りに行って逆にハブに咬まれ、毒が回り死んだという結末に視聴者から多数の抗議が殺到して、映画化につながったという。

映画がシリーズ化されたのは翌年の1969年、昭和44年、大学紛争がピークに達し、安田講堂の攻防戦が沈静化した年でもある。講堂の屋上に立てこもった学生に消防ホースの水を浴びせる映像が今も鮮明に残る。当時僕は13歳で中学2年生だった。一方ではアポロ11号が月面に降り立った年でもあった。月面でゆっくりとピョンピョンと跳ねる映像が未だに記憶に新しい。「これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である」という名言と、安田講堂の攻防戦はあまりにも対照的だった。

ロビーのお年寄りたちが75歳とすると、シリーズの第一作を観たのは51年前だから24歳。この人たちもゲバ棒を振り回していたのだろうか。いやいや、そんなことはどうでもいいか!(^^;)! 先日、スターウォーズファイナルを観たがやはり僕と同世代の60半ばが人がほとんどだった。つまり、映画と共に年をとった、まるで同窓会のようだった。

さて、映画というと、細かく書くとなると一晩でもかかりそうなのでそれはおいといて、おおざっぱにいうと、寅さんを偲ぶにあまりにも淡々としていて、それが余計に涙を誘った。寅さんと交わった女性が次から次へと登場してくる。吉永小百合 大地喜和子 酒井和歌子 杉村春子 池内淳子 細腕繁盛記の女将…。51年前のさくらはすっかりおばあちゃんになった。光男も後藤久美子もオッサンオバサンになった。リリーの浅丘ルリ子はもはや宇宙人だったがいぶし銀の役をこなした。

サラリーマンだったころ、職場の仲間と観に行った。帰りがけに同行した女性が言った。

「私、寅さんキライ。あんな人がそばにいたら大迷惑。もてはやす意味がわからない」

確かに確かに。気に入らないことがあればつっかかる。ちゃぶ台はひっくり返すわビンタは飛ぶ。早い話がとんでもない人。でも山田監督はなぜこんなキャラを主役にしたのだろう。

監督はおそらく、この寅というどうしようもない人間を通して、そうだけども誰でもどこかにいところもある。そういう人もいて当たり前。家族は、社会はそういうものだということを云いたかったのではないか。

登場人物にオヤっという人が出た。落語家の立川しらくさんだ。最近はテレビで右派コメンテーターとして注目されている。映画では、介護施設を訪ねて「私はしらくです。フランスの大統領ではありません。ウケねえじゃねえか」と引き上げる。

山田監督は安倍政権にも厳しい目を向ける。そんな監督に、同じく映画監督のマキノ雅彦で俳優の津川雅彦さんは「左翼が日本 映画をダメにした」と切り捨てる右派の論客。津川さんが叙勲の際、安倍総理が最大の賛辞を贈った。
そんなこともあったので、落語家のしらくさんが登場したのには少しばかりへーっとなった。

寅さんのセリフにこんなのがある。
「この家で揉め事があるときは、いつも悪いのはこのオレだよ。でもなあ、さくら、オレはいつも、こう思って帰ってくるんだ。今度帰ったら、今度帰ったら、きっとみんなと仲良く暮らそうって、あんちゃんいつもそう思って」

寅さんが帰ってきたときは、みんな戸惑いながらも歓迎する。でもやっぱりちゃぶ台返しとなる。本当にどうしようもない。でもまあ、暮らしってのはそういうもんだろう。それを繰り返して和解していくんだ。

最後に光男が寅さんを思い出し、涙するシーンがある。これにはほんとに涙が溢れた。

いろんなキャラがたくさん出てくるのがこの映画。どうしようもない寅さんだけど、こんな人がいてもいいんじゃないか? と寅さんを通して寛容を説いたのが山田監督の云いたかったことではないのかな。

山田監督 寅さん ありがとう。

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