鯛の里日記

周防大島町沖家室島の民泊体験施設・居酒屋の日常と、宮本民俗学の学びを書きます。

安政の南海大地震で大波戸はどうだったのかな?

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先日、海藻研究所の新井章吾さんから、「安政地震の大津波のときでも古い港だけは崩壊しなかったと聞いたが、沖家室はどうだったんですか?」と問われました。沖家室で波戸が崩れたという話しは聞いてはいないが、はて? 古波戸が安政地震の前だったか後だったか。

そこでちょっと調べてみました。

「防長風土注進案」。これは毛利藩防長二州全域におよぶ、各村落の沿革、地理、産業、経済、社会、習俗等の実態を細大もらさず綿密に調査した記録。藩政改革に起用された村田清風らによって天保11年に管下の...
各市町村島浦から「地理産業仕出」の名目で、一定の綱目を示して実態調査の上申を命じ、これをまとめたものを「風土注進案」と名付けました。山口県の古い記録としてはもっとも信頼性の高いものです。多くの学術書がこの風土注進案を出典元としているのはその信頼性の高さからです。

その注進案から沖家室の大波戸の記述をみると下記のようにあります。

「一波戸壱ヶ所須崎刈山ヨリ地続曲形寅ノ方エ出張二十五間、寅ノ方ヨリ子ノ方エ曲三十五間総長サ六十間根梁拾間高サ四間、何風吹候イテモ煩少モ無御座候得共、迫シテ海浅ユヘ百石ヨリ四五百石迄之船七八(そう)小漁船百(そう)位ハ繋泊相成可申、諸品交易之便利宜場所ニ自道商船数(そう)出入仕候、文化十四丑の年(1817)願出御免相成候上、須崎村地下中自力ヲ以築立仕候事」

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上記の文の終わりのところ

「文化十四丑の年願出御免相成候上、須崎村地下中自力ヲ以築立仕候事」
(ぶんか十四うしの年(1817年)願いでて御免あいなり候うえ すさき村ぢげちゅう 自らをもってちくりゅうし候)

ざっくり言えば、1817年に波戸を造りたいと藩に願い出て許しが出た。須崎村(沖家室大橋のある地区)の村民総出で自ら築きあげた。

すごいですね。藩の力を借りずに自前で築いたという当時の財政豊かさと心意気。

安政南海地震1854年に起きていて、その37年前にこの波戸が出来ていますから津波を被っているはずです。この注進案の記録は天保12年(1841)だから地震の前の記録ですが、以降 沖家室にはこの大波戸が崩れたと言う話しはありません。津波の直撃を受けなかったのは、家村が北に向いていたからかもしれませんね。もし南に向いていたとしたら、甚大な被害をうけていたかもしれません。

1991年に襲った巨大台風19号は、沖家室の対岸の佐連地区の波戸が決壊、さらに伊崎地区の波戸もほぼ全壊。外入は津波規模の波が押し寄せて海岸付近の家はことごとく破壊されました。災害救助法が適用されました。すべて村が南に向いています。安政地震津波は外入で海抜18メートルまで押し寄せた記録が残され、その碑が今もあります。

【画像】は古い写真にみる沖家室の大波戸です。昭和の始めころの写真と思われます。大きな帆船は遠洋漁業舟です。左右と船尾で7丁櫓くらいかな? 手前には北前千石舟が係留されています。2006年に水産庁から「未来に残したい漁業漁村の歴史文化財産百選」に選定されましたが、この大波戸の存在とこの波戸に囲まれた島の風景が選定に大きく寄与したと言われています。
 
Iターンされて安下庄に住む石田俊文さんからメッセージ
http://www.kinsei-izen.com/ranking/35_breakwater.html 近世以前の土木遺産のページに『山口県の近代化遺産』P138を出典に沖家室須崎防波堤について『地元住民が協力して築造/多くの廻船・漁船の係留地として繁栄をもたらした/久賀の石工の技術を駆使して築造→激しい潮流・波浪の衝撃を巧妙に分散・緩和する構造/典型的な子持波止(内港側に一段低い犬走りを有する)』保存評価は2、価値評価はBと記載されています。興味深いですね。
 
島根の友人 大田明夫さんからメッセージ
「激しい潮流・波浪の衝撃を巧妙に分散・緩和する構造/典型的な子持波止」あたりに「技」というか「智慧」を感じますね。私たちの住む山地でも、いろいろなところで、「昔ながらの蛇篭が一番」みたいなポイントがあるのを聞くと、ただただ驚くばかりです。「柳」の工法ということか。
 
海藻研究所々長 新井章吾さんからのメッセージ
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東日本大震災津波でも壊れなかった明治時代初期に作られた南三陸町歌津の石垣。津波は枯れずに残っている杉の付近まで到達し、この近くの二階建ての家やコンクリート護岸,その他のコンクリート構造物が破壊されているのに、古い石垣は壊れていませんでした。外から力が加わると,その衝撃を分散し,さらに内側に締まる構造であることがよいのだと思います。
 
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