木の芽の時期に続いて梅雨のふた月は、神経痛持ちにとってつらい季節。今ではだいぶ収まった方。ケガをしたあとの数か年は歩きながら急に力が抜けることもあった。左足だったので車の運転にはまったく支障がなかったのは幸いだった。
こんな季節にふと思いだす。
あれは雨が激しく地面を叩きつける山道だった。離合も難しい細い道の前方に普通車が止まっていた。動く気配はなかった。そもそも人が載っているのだろうか。横の家の住民か。
すると女性が車から降りた。
「どうされましたー?」
と僕が叫ぶとなにやらジェスチャーをする。右手をクルクル回し、指先で車内を指し両腕を交差してバツ。そしてペコリと頭を下げた。ははあ、エンジンがかからんようだ。
あいにく傘を持っていなかった。しかたなくずぶ濡れになりながら車に駆け寄った。
「すみません。エンジンがかからなくて」
女性もずぶ濡れだった。
「どうぞ、運転席にすわってください。まずブレーキを踏んでください。シフトレバーをPに入れてください。キーを回してください」
「あ、かかった~。ありがとうございます」
僕はもう全身がずぶ濡れだった。「じゃあ気を付けて」と車に帰ろうとして女性の顔をみると、なんとも美人。ニコッと笑った顔は女優の夏川結衣に似ていた。
「すみません、なにかお礼を。待ってください」
(オッ、やった。いやいや…!(^^;)!)
「いえ、いいです いいです。どうぞ気にしないでください」
僕は車に戻った。
女性は窓から手を振りながら去って行った。やれやれ、寒い。暖房を入れた。えらい目に遭ったとひとりつぶやいた。
でも、この出会いが二人の運命の出会いであったことを、このとき知る由もなかった。
なんちゃって。(ง `▽´)╯ハッハッハ!!。