鯛の里日記

周防大島町沖家室島の民泊体験施設・居酒屋の日常と、宮本民俗学の学びを書きます。

宮本常一著「土佐源氏」のひとり芝居 坂本長利さんが亡くなられた

 

俳優の坂本長利さんが亡くなられたことを、プロデューサー仲村さんから知らされた。

宮本常一著「土佐源氏」のひとり舞台。上演回数は1200回を超えた。宮本先生の故郷、周防大島公演は僕の知る限り3回。公演時はいつもこの沖家室で過ごされ、小庵鯛の里は坂本さんやスタッフの宿泊や料理の機会をいただいた。

かつては日活の映画にたくさん出演され、Dr.コトー診療所の村長役もされた。最近ではドラマ「深夜食堂」に出演され、味わいのある演技に魅了した。

リンクページは2019年。周防大島公演では90才を迎えられ、卒寿記念公演となった。その夜は、泊清寺で誕生祝いをした。あんなに元気だったのに。

ご冥福をお祈りします 享年94才

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2019年10月16日の日記から

坂本長利さんの独演「土佐源氏」、90才卒寿記念公演はとりわけ素晴らしかった。もう、馬喰じいさんが坂本さんに乗り移ったか、坂本さんが馬喰じいさんに乗り移ったか、神が憑依したかのような迫真,,,いや演技ではなくそのものとさえ思った。

ぼくはみるポイントが六つある。一つは、馬喰じいさんが舞台に登場して、じいさんが宮本先生に話しかけるところ。「アンタは嫁さんはありなさるか?」と聞くところ。実は坂本さん扮するじいさんが、客席の真ん前の人に目を見ながら語りかける。数年前、岩国公演で最前列のど真ん中に座っているとき、至近距離で「アンタは嫁さんはありなさるか?」と語りかけられたことがある。ぼくは思わす「ハイ!!」と言いかけてしまった。もし返事をしたら、爆笑となったか、もしくは大ヒンシュクをかったかもしれない。

二つ目は、子ども同士が納屋の中で悪ふざけをするところ。「おまえもおらのにいれてみい,,,それがワシのおなごを知ったはじめてじゃった」。なんとも気も恥ずかしくなる場面。

三つ目は、役人の嫁さんに惹かれて、嫁さんと交わるシーン。「上の大師堂で待っとるで」。そして嫁さんが大師堂の階段を上がるシーン。坂本さんが、前掛けで手を吹きながら額に汗する嫁さんを演じる。上がってきた嫁さんを「わしがニコっと笑うたら、嫁さんもニコっと笑いなさった」。その坂本さんの表情が、両肩をヒョッコリと挙げて首を傾けてニコっと笑う。可愛くもあり会場もクスッと笑う。

四つ目は、県会議員のおかたさまと交わるシーン。「おかたさまおかたさま、あんたのように牛を大事にする人は見たことありません。どだい尻をなめてもええほどきれいにしておられる」。「あんなこといいなさる。どんなにきれいにしても尻がなめられようか,,,」「おかたさま、おかたさま、人間もかわりありませんで。わしなら、いくらでもおかたさまの,,,,,,」。ところがおかたさまはその後しばらくして、肺炎にかかってポックリしんでしまう。「わしは三日三晩、寝込んだまま男泣きに泣いたのう,,,,,,そのあげく目がみえんようになった」。なんとも艶っぽく泣ける場面である。

五つ目、最後の場面。「そろそろ婆さんが帰ってくるころじゃで、女の話はやめようの」。そして、小屋を出ていく前に、土間へドテっと転落する場面。わずか30センチくらいの段差だが、大きな音がするくらいに落ちる。おいおい大丈夫かとこちらも心配になる。今回も派手に落ちたもんだ。過去に、前列でみていた老人が「じいさん、アンタ大丈夫か?」駆け寄ったことがあるそうだ。そばにいた息子が「オヤジ、これは演技じゃ」と止めたエピソードがあるそうだ。「このときは困りましてねえ。私が演技ですという訳にもいかんですし」。

六つ目。ムシロをはおり、風の中を引き上げるシーン。ヒューっという効果音とムシロが風になびく。芝居をしめくくる大一番。時に風によろけながらムシロが背中で舞う。実は風など吹いてはいない。本当に風に煽られるように見えるのだ。

落語は何度見ても、同じところで笑い、そして泣く。見るたびに味わいが深くなる。それと同じような感覚がある。土佐源氏のストーリーは著書を読み、坂本さん演じる芝居もみて、ほとんど頭の中にある。だけども、みるたびに発見がある。いくら読んでいようと、一字一句までは覚えてはいない。芝居をみたあと、著書を読み返すとまたあたらしい発見がある。宮本先生のひとつひとつ丁寧な筆致に驚かさせられるのだ。

公演後は泊清寺にて坂本さんの90才の誕生会を身近な者でお祝いした。お疲れでないか心配をしたが、しっかり食べて呑んで、ご機嫌のご様子で安心した。

「会場では宮本先生が片隅で見ておられるように感じましてね。実をいうとこの年になると心配でね。でもきょうは頑張りました」。「百歳まで続けられたらおもしろいなあと、どういう馬喰じいさんが演じられるか、そういう気持ちでおります」と話された。ひとつひとつ演じながら、その先はどこまでなのか、坂本さんの長い旅はまだ続く。