
物語「竹林の守人(もりびと)テル」
第2話:「封印の裂け目」
テルが指し示した尾根の先――そこには、古くから「神鳴石(しんめいせき)」と呼ばれる岩があった。山の民の言い伝えでは、その石は天地がまだ一つだった時代に空から落ちてきたとされ、「災いを封じる鎖」として祀られていた。
だが今、その石に亀裂が走っていた。石の周囲には、風に逆らってうごめく黒い靄。目に見えぬはずの「もののけ」が姿を現し、辺りの木々がざわめき出す。若者たちは後ずさりしそうになるが、テルの背中が揺るがぬ壁となって彼らを守る。
テルは腰の道具袋から一本の竹の杖を取り出す。それはこの地の「精霊竹」から削り出された特別な道具だった。かつて山に棲む老女に託されたものだ。
「この山は、長い眠りの中で静かに災いを封じてきた。しかし、封印を維持する力が衰えた今…“山の声”を聞ける者が必要なんだ。」
彼は竹の杖を地に突き立て、大地の鼓動を感じ取ろうとする。すると、かすかに響く、石の内側からの「叫び」が心に飛び込んできた。
「われらは忘れ去られた…。この地の守人は、何処へ――」
テルは静かに目を閉じる。山の精霊が助けを求めているのだ。かつてこの地にいた“初代守人”の封印が弱まったのは、自然の崩壊だけが原因ではなかった。山と人との「つながり」が失われていたのだ。
彼は立ち上がると、振り返って若者たちに言った。
「この山を、人と自然の橋にしよう。封印を修復するには、私ひとりでは足りない。お前たちの“想い”が必要だ。」
若者たちは戸惑いながらも頷いた。
「山の精霊に、人の声を届けよう。」
その瞬間、空から一筋の光が神鳴石に降り注いだ――それは新たな契約の始まりを告げる光。テルと若者たちは、千年の時を超えて再び「山の守人」として立ち上がるのだった。
<次の予告>
第三章:「影の主(ぬし)」
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