鯛の里日記

周防大島町沖家室島の民泊体験施設・居酒屋の日常と、宮本民俗学の学びを書きます。

池内紀著「すごいトシヨリBOOK」

ドイツ文学者 エッセイストの池内紀(おさむ)さん著書「すごいトシヨリBOOK」。

すでに読んでいたが、また読みたくなったので手にした。自分の老後の在り方を考えていたら、ふとこの本を思い出したのだ。

この本は池内先生が77歳のときに書かれたもの。

70歳の時、77歳まで生きるという仮定をたてたそうだ。そして77歳になったとき、三年を一区切りにする。そしてまた更新をする。

老いとどう向き合うか、今まで生きて来た教訓からいろんな知恵がちりばめられている。先生は旅好き。池内流旅の極意も記されている。

実は2010年8月30日に、周防大島郷土大学の講師としてお招きし講義をいただいた。そのときに小宿「鯛の里」へお泊りになった。同じ郷土大学の役員である光田さんの大学時代の恩師でもあるというご縁だった。

焼酎のロックをカラカラさせながら夜が更けるまで呑んだ。

「私はね、高級なピカピカした宿よりもこうした仕舞屋風の宿が好きでしてね」

仕舞屋(しもたや)とは、店じまいをした家の意の〈仕舞(しも)うた屋〉から変わった言葉で,商売をしていない家をいう。高名な作家にこんなボロ宿は申し訳ないと思っていたが、少しほっとした。この夜のことは他の著書で旅の思い出として書かれていた。

その先生が2019年に、この本を書いた77歳の翌年78歳で亡くなられた。三歳一区切りの更新もせずに逝ってしまわれた。命日となったその日は郷土大学の講義の日から9年後、同じ8月30日だった。

なんとあっけないものだ。まだまだいろんなところを歩き、記録を残したかったに違いない。

話しは自分にフルが、僕は今年で66歳を迎える。前期高齢者の仲間入りを果たした。では体はどうかというとガタガタ。夜目が利かなくなり、耳は遠くなった。足もケガの後遺障害がある。

父は最後の船を新造したのが74歳。本船14隻、小さな船を入れると17隻の船をつくった。僕にはそんな財も体力もない。そんな父もボケ始めたのが85歳のころ。おそらく僕もそのころにボケるかもしれない。そう思うと、その年まであと20年。それまでに、まだ見ぬ土地を観てみたい。旨い酒をたらふく呑みたい。いや、その年にはこの世にはいないかもしれない。できればそれまでに、持ち物をゼロにしたい。そんなあれこれを思うと、焦るのである。

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