鯛の里日記

周防大島町沖家室島の民泊体験施設・居酒屋の日常と、宮本民俗学の学びを書きます。

連載「ゆうたの夏」第21話「ゆうたの両親が島に帰省」

第21話「ゆうたの両親が島に帰省」

「お父さーん! お母さーん!」
お盆を迎え、ゆうたの父と母が島に帰省してきた。

フェリーのデッキから笑顔で手を振る二人に、ゆうたも全力で手を振り返し、声を張り上げる。タラップが降ろされるやいなや、ゆうたはまっすぐに駆け寄った。

「ゆうた、すっかり日に焼けたなあ」
父はがっしりと肩を抱く。

「少し大きくなったわねえ」
母は顔や腕を確かめるように撫でた。

両親にもみくちゃにされ、「うわー、あー!」と叫ぶゆうた。
港に集まった人たちから、どっと笑いがこぼれる。

祖父も麦わら帽子を手に、笑顔で立っていた。
「お父さん、久しぶりです。ゆうたがお世話になりました」

父が深々と頭を下げると、祖父は目を細めて言った。
「いやいや、ええ友達ができてのう。この二人がよう遊んでくれてな」

そばには航太とさくらが並んで立っている。

「航太くんとさくらちゃん、ゆうたがいつもありがとう」
母の言葉に、航太は照れくさそうに肩をすくめ、

「いやー、兄弟みたいなもんすから」
さくらも「うん、ほんとにね」と笑った。

港には、さくらの父が銭湯のマイクロバスを運転して待っていてくれた。

「うちの軽トラじゃ全員は乗れんけえの」と祖父が笑う。

「ゆうたがたいへんお世話になっていて、ありがとうございます」
母が礼を言うと、さくらの父は、

「いやいや、ウチも娘ひとりじゃけえ、息子ができたようなもんですよ」と返した。

海沿いの道を走るバスは、やがて祖父の家に到着。

玄関先には祖母が、ひときわ明るい笑顔で出迎える。

「お母さん、ただいま。ゆうたがお世話になってすみません」
母が頭を下げると、祖母は手を振って、

「いやー、ええ友達に囲まれて、わたしらも楽しいんよ」と答えた。

「ゆうた、またあとでなー!」
航太とさくらはバスに乗り込み、手を振って去っていく。

その夜の食卓には、祖父が昼に釣ったタイの刺身を中心に、アジの南蛮漬け、煮付け、祖母の煮しめが並んだ。

氷の上に並ぶ銀色の切り身が、裸電球の灯りを反射してきらりと光る。
「ほら、食べんさい」
祖母が取り皿に山盛りの刺身を置く。

父は箸を止めて、「うまいなあ、このタイ…」と何度も頷き、

母も「こっちの魚はほんとに味が違うねえ」と顔をほころばせた。

ゆうたは得意げに、「じいちゃん、手釣りで釣ったんよ!」と自慢する。
祖父は「そがあに言わんでもええが」と口をすぼめて笑った。

夕食のあとは父と風呂へ。

木の桶に湯をくみ、背中を流し合いながら、ゆうたは夏の出来事を次々と話した。
ラジオ体操、ハマチ作戦、肝試しで古狸に遭った夜…。

父は「いい夏を過ごしてるな」と何度も頷いた。

夜、祖父が張った蚊帳の中に三人並んで横になる。

外からは波の音と、夜鳴く蝉の声。

母が扇風機を弱にして回し、蚊帳の布がゆらゆら揺れた。

電気を消しに来た祖父が、
「明日は十四日じゃ。ご先祖さんを迎えるけえ、朝から忙しくなるで」
と声をかける。

「うん!」と答えるゆうた。

潮と畳の匂いに包まれながら、静かにまぶたを閉じた。

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